取り組む謎宇宙の謎01 銀河団の設計図 力学的進化

宇宙の大規模構造「銀河団」は
どうやってできたか?

銀河団の構造は、基本的には、もっとも大きな質量を占める暗黒物質がつくり出す重力場と、高温プラズマ圧力との静的なバランスによって成り立っているように見える。これは物理的には奇妙である。なぜなら、膨大な高温プラズマといえども、X線放射を出しながら次第に冷めていく。冷めれば圧力が下がり中心部の密度が高くなる。密度が高くなると、さらに放射効率が上がり温度は下がる正のフィードバックが働き、密度の高い中心部は1~10億年程度で自分の重力でつぶれてしまうはずである。しかし、実際には銀河団は100億年のスケールで安定しており、崩壊の兆しはみられないのだ。

では何者が、放射によるエネルギー流出を補填し、崩壊を止めているのか。その候補として、たとえば、周辺の冷却されていないプラズマからの熱伝導、高温プラズマ中を運動する銀河からのエネルギー供給、あるいは、中央部にある大きな銀河に含まれる超巨大質量ブラックホール(活動銀河核)から吹き出す高速のプラズマ流による加熱が議論されてきた。最初の候補は温度分布の精密な測定、あとの二つは、銀河周辺の高温プラズマの運動の様子が手がかりとなる。XRISMの搭載する超高分解能X線分光装置は、元素輝線の精密な測定によって、熱運動の速度の数分の一にいたる精度で、プラズマの温度や元素の速度を測る能力を持つ。すなわち、もし期待されるような加熱を引き起こすような運動が存在すれば、かならず検出し、銀河団の構造形成を巡る長きにわたる論争を決着させることができる。そしてそれは、より根本的な暗黒物質の分布や運動を通じて、その正体を解明することにつながるはずである。

銀河団